2007年12月10日

対談【「座右の日本」を読み終えて】(3)

b3b706c5.JPG<タイカルチャーの中の日本>

吉岡 そもそも、タイでずっと人気が続いている人って、ほとんどいないんですよ、バード(・トンチャイ)以外。特に映画がそうなんですけど、看板女優とか看板俳優みたいな人が最近全然いなくて、『マッハ!』に出てくるトニー・ジャーはちょっと頑張っていますけれど、あとはほとんどの作品で必ず誰か新人が出てきます。新しもの好きなのか、とにかく新しい人、新しい人と出てきて。タイでは、どうしても文化の担い手となる層の薄さは否めないと思います。日本では中流層を想定するのが簡単じゃないですか。でもタイで真ん中って考えられないんですよ。地方は農家が多くて、貧富の差も激しいですし。

立田 日本のサラリーマンみたいな感じの人が少ないんですね。

吉岡 プラープダーさんは、タイでもっと日本の漫画を紹介したいと言っていますね。それは、向こうに行っていないジャンルがまだまだいっぱいあるからなんです。例えば典型的なのが『課長 島耕作』とか、OLさんが主人公になったものとか。日本では普通に読者層として想定されうる中間層のオフィスワーカーが、タイではポッカリ空いている感じなんですね。少なくとも需要の層としては。日本の漫画が今、タイで人気があると言われていても、『未来少年コナン』とかファンタジーや子どもの世界がほとんどになっちゃって、ちょっとリアルになっていくと、あまり行かないんです。でもそろそろ行けるんだと思うんです。日本の感覚で言えば月収20〜30万ぐらいでボーナスもあって、お金を貯めれば1年に1回は海外旅行に行けるという人々が、やっと層として出てきたと思うんです。そういう意味では、漫画ももっと入って行けるかも知れないですね。

立田 サイアム・スクエアに漫画喫茶ができたって書いてありましたね。

吉岡 実はそれ、もう潰れちゃったんです(笑)。漫画の性描写などが不適切とクレームがついて。でもメイドカフェ「ぴなふぉあ」のバンコク店は人気のようです。

立田 私たち日本人も、映画界の人ですら、タイ映画に対する偏見というかイメージは一定していますよね。やっぱり超エンターテインメント。トニー・ジャーみたいな世界のほうが一般的だと思うんですよね。ジャンルが偏っていて、エッセイ(「トラックがすし詰めなら」)の中でプラープダーも嘆いています。あれは本当にそうなんですか?

吉岡 そうなんです。お化けかオカマか…、とにかく3種類くらいしかないんです。ある程度しょうがないと思うんですよ。ショッピングセンターに付随しているシネコンがいっぱいあって、入場料は日本人の感覚でいうと800円から1000円くらい。ちょっと寄って映画でも観ようかと、どれでもいいから入るという人が本当は多くて、でも10スクリーンあったら、7〜8スクリーンはハリウッドのブロックバスター映画になっていますから、それと並べられるものと考えると、クオリティの追求はなかなかできないですよね。すごくローカルなネタで笑わせる、日本でいえば明石家さんまさんが出てるとか、吉本のお笑い芸人の、あの彼が警官役やってる、ははは、みたいな感覚で盛り上がらざるを得ないんです。トニー・ジャーはまじめにエンターテインメントを目指していますが。
<相互の視線に深いギャップ>

立田 プラープダーは最初、映画評を書いていたんですよね。その映画評はどういうものだったんですか?

吉岡 英字新聞『ネイション』に英語でしばらく書いていたんです。いつも署名が「Prabda」となっていて、プラープダーさんのEメールアドレスが書いてありました。はじめ僕はそれが誰なのか全く知らないで、けっこう面白いので切り抜きしていたんですよ。面白いというのは、解説自体がすごく独自というわけではなかったのですが、とりあげる映画が、誰が読むんだろうというくらい一般的じゃないんですよ。小津安二郎のことも書いていたりして、でもそんなDVDはタイで売っていないし。

立田 エッセイにもありましたけど、タイではアート系の映画をかけるアートシアターは、まだまだマイナーなものらしいですね。

吉岡 今は、少しありますね。

立田 私、映画館はサイアム・パラゴンにあるあの大きなシネコンしか行ったことがないんです。

吉岡 設備はすごいですよね。

立田 パラゴンに関しては、ショッピングセンターとしては日本より進んでいると思いました。建築的にも、入っているブランドとかも。はっきり言って、表参道ヒルズ、恥ずかしい(笑)。広さとかブランドの揃え方とか、その面積もすごい。タイへ行くと必ずパラゴンは行きます。1階はフードコートになっている。「大戸屋」とか和食屋さんも入っていて。

吉岡 大戸屋は今、タイでイメージがいいんですよ。

立田 紀ノ国屋のような高級スーパーもあって、日本やイタリアの食材、フランスの高級ワインもすべて揃っている。

吉岡 便利さの追求の意味ではすごいと思います。どこに行ってもショッピングセンターの仕組みはあんな感じですよ。向こうからこっちを見ている目と、こっちからバンコクを見ている目に、すごいギャップがあります。バンコクは変わる変化が早くて、2000年ぐらいから変わり続けていると思うんですけど、行くと急に変わっているのにびっくりする人が多いですね。

立田 毎回驚いています。今、バンコク映画祭はパラゴンの上でやっているんですよね。バンコク映画祭はよくなってきているんですか?

吉岡 昔に比べると予算が減っちゃったと思うんですよね。プログラミングはよくなったと思うんですけど、セレブを招待したりする華やかさはちょっと減ったのかも知れません。

立田 去年か一昨年は、カトリーヌ・ドヌーヴも来たとか。

吉岡 せっかくバンコクの映画祭なのに、外部委託で演出して、しかもハリウッドの真似みたいなことをしていいのか、という声もあったみたいです。


(以下、12月12日更新分に続く)
※写真はバンコクのコスプレイヤーたち。宇戸清治教授の撮影。