吉岡 そもそも、タイでずっと人気が続いている人って、ほとんどいないんですよ、バード(・トンチャイ)以外。特に映画がそうなんですけど、看板女優とか看板俳優みたいな人が最近全然いなくて、『マッハ!』に出てくるトニー・ジャーはちょっと頑張っていますけれど、あとはほとんどの作品で必ず誰か新人が出てきます。新しもの好きなのか、とにかく新しい人、新しい人と出てきて。タイでは、どうしても文化の担い手となる層の薄さは否めないと思います。日本では中流層を想定するのが簡単じゃないですか。でもタイで真ん中って考えられないんですよ。地方は農家が多くて、貧富の差も激しいですし。
立田 日本のサラリーマンみたいな感じの人が少ないんですね。
吉岡 プラープダーさんは、タイでもっと日本の漫画を紹介したいと言っていますね。それは、向こうに行っていないジャンルがまだまだいっぱいあるからなんです。例えば典型的なのが『課長 島耕作』とか、OLさんが主人公になったものとか。日本では普通に読者層として想定されうる中間層のオフィスワーカーが、タイではポッカリ空いている感じなんですね。少なくとも需要の層としては。日本の漫画が今、タイで人気があると言われていても、『未来少年コナン』とかファンタジーや子どもの世界がほとんどになっちゃって、ちょっとリアルになっていくと、あまり行かないんです。でもそろそろ行けるんだと思うんです。日本の感覚で言えば月収20〜30万ぐらいでボーナスもあって、お金を貯めれば1年に1回は海外旅行に行けるという人々が、やっと層として出てきたと思うんです。そういう意味では、漫画ももっと入って行けるかも知れないですね。
立田 サイアム・スクエアに漫画喫茶ができたって書いてありましたね。
吉岡 実はそれ、もう潰れちゃったんです(笑)。漫画の性描写などが不適切とクレームがついて。でもメイドカフェ「ぴなふぉあ」のバンコク店は人気のようです。
立田 私たち日本人も、映画界の人ですら、タイ映画に対する偏見というかイメージは一定していますよね。やっぱり超エンターテインメント。トニー・ジャーみたいな世界のほうが一般的だと思うんですよね。ジャンルが偏っていて、エッセイ(「トラックがすし詰めなら」)の中でプラープダーも嘆いています。あれは本当にそうなんですか?
吉岡 そうなんです。お化けかオカマか…、とにかく3種類くらいしかないんです。ある程度しょうがないと思うんですよ。ショッピングセンターに付随しているシネコンがいっぱいあって、入場料は日本人の感覚でいうと800円から1000円くらい。ちょっと寄って映画でも観ようかと、どれでもいいから入るという人が本当は多くて、でも10スクリーンあったら、7〜8スクリーンはハリウッドのブロックバスター映画になっていますから、それと並べられるものと考えると、クオリティの追求はなかなかできないですよね。すごくローカルなネタで笑わせる、日本でいえば明石家さんまさんが出てるとか、吉本のお笑い芸人の、あの彼が警官役やってる、ははは、みたいな感覚で盛り上がらざるを得ないんです。トニー・ジャーはまじめにエンターテインメントを目指していますが。

