2008年01月22日

対談【「座右の日本」と日タイカルチャー新次元】(4)

1f98f8ea.jpg<対岸からの視線に恋し合う日タイ、その差異>

吉岡 そういえば『タムくんとイープン』も『座右の日本』も、それぞれタイ語版がタイで出ているんですよね。どちらも、タイ語が先ではなく、日本人が立案してタイ人に日本について書かせたという共通項がありますね。それがタイでそれなりにちゃんと流通するっていうのもすごい。

木村 タイ的には、わりとありな企画なんですよね。日本について書くというのは、マーケティング的にバッチリ売れそうな本って感じなんですけれど、この2冊の場合はどちらも日本で荒野を開拓するような本をまず日本で作って、それをタイに持って帰ったという。

吉岡 逆なのが面白いですね。日本側から熱い視線をタイに送る人って、観光的にはいるんですけど、そこからなかなか先へ行かない。2000年頃、木村さんとかが面白そうって言ってた頃から、核でそう言っている人ってあんまり数的には変わっていないですよね。それと、逆にタイ側で日本を見る目はどうかというと、日本の企業もたくさんタイへ行っているし…。

木村 漫画もあるし。

吉岡 日本にある程度の好感を持っている人は、もともと多かったと思うんですけれど、いろんな部分で日本特集の本とか雑誌とか、テレビ番組とか、さらに増えたイメージがあります。その両側のギャップをとても感じますね

木村 でもタイでヒットしている日本関連の本は、ちょっと旅行した感想だけの本とかが多いですね。
吉岡 一般的には、入りこみ過ぎないほうが読みやすいのかもしれませんね。あまり入り過ぎると、分からなくなるのかも。旅行へ行くんだったらどこへ行ったほうがいいとか、料理はこういうのがあるとか、お好み焼きはこう食べるとか。逆もきっと一緒なんでしょう。やっぱり、タイっていうと、観光行くとかマッサージがどうとか…。

木村 旅行ガイドブックとかは何十万部も売れたりしてるのに、全然違いますよね。タイへ旅行に行く日本人って、年間100万人でしたっけ? その1%でもいいから2人の本を読んでくれ、という感じです(笑)。

吉岡 同じように渡航者が多いフランスとかアメリカとか、ニューヨークとかで考えると、そっちは例えば美術館特集とか、あるジャンルで深く掘り下げても、それなりに進むのに。

木村 タイのその少ない人口の中で、こういう日本のもの、サブカルチャーに対して向いているベクトルって比率的にはかなり多いですよね、日本人のそれに対して。なんでそんなに売れるんだろう、ウィスットを見ていても思いますけど、日本ではやっぱり大変ですよ。そこまでなかなか。

吉岡 これがバリアだと思った部分ってありますか? 知名度? ウィスットさんは日本のいろんな媒体に出ていますよね?

木村 媒体には出ても、タイ人だという部分がおもに取り上げられるんです。作品の話に行かないで、タイ人で日本に住んでいて日本の漫画を描いてる人がいますよ、っていう紹介…。プロフィールで記事の9割は埋まっちゃって、本質の話にならない。まともに評論されることがないのが嫌ですね。作品が駄目でもいいでも、なんでもいいんですけど、ちゃんと評価をしてもらいたいんです。

吉岡 俎上に乗らないんですね。

木村 ちゃんと文化一般として並べて欲しいですし、こちらも並ぶものだと思ってやっているんですけども、それに乗らないで、まずは外国人モノみたいな変なジャンルに入るんですよ。

吉岡 それって危険ですよね。マイナーファンみたいなものに囲われていっちゃうと、嫌ですよね。

kagami表紙<『観光』を選ばないプラープダーの凄さ>

木村 そうなんです。タイ好きでもなくって、またそのさらに小さいマイナーな外国文化ファンみたいな。そうなんですよ。だからなるべく普通のところに並べたい。そんなにタイ人タイ人という感じでアプローチしていないんですけどね。
 あと、プラープダーさんの『鏡の中を数える』を読んだ時に思ったんですが、ちょうど同時期に出たラッタウット(・ラープチャルーンサップ)の『観光』に比べたら、どんなに『鏡の中を数える』がえらいことかって思いましたね。ラッタウットのほうが分かりやすくて、なんか泣けるとか、あるじゃないですか。だけど本当にプラープダーさんって『観光』みたいな外国人にわかりやすいタイっぽい話題は出さないで、すごい荒野を進んで行っている。それに比べるとラッタウットのって安直なんですよね。それは僕がタイのことをよく知っていて、プラープダーさんの状況とかタイの文化状況を知っているから感じるのかも知れないし、作品としては『観光』もそれはそれで面白いんですけれど、でもああいうやり方をプラープダーさんって全然選ばないじゃないですか。だからあれを読んでいて、すごいなって思いましたね。

吉岡 『観光』はamazonでのカスタマーレビューがオール五つ星なんですよね。びっくりしました。僕も読んでいて五つ星まではさすがに行かないと思っちゃったので、みんながどういう文脈で評価しているのか、よく分からなかったんです。

木村 感動モノっていう文脈なんじゃないですか?

吉岡 そこは不思議な感じがしましたけど。

木村 あのバンコクの、分かりやすいものが大好きな状況の中から、プラープダーさんみたいなシンプルで淡々としているもの、フラットな作品が生まれた。読んでいて、どこまでその面白さが日本人に伝わるのかなと思いましたね。それが分かると、もうめちゃめちゃすごいなって思ってもらえる作品だと思うんです。

吉岡 文学で競争していくのは大変ですよね。国内でそうした競争があるほうがレベルがどんどん上がっていくことが多いですが、タイにいるプラープダーさんの周囲には競争があまりないですし、他の国にも出て行って勝負しようと思うと、本当に大変だろうなあと思います。

木村 プラープダーさんに続く人っていうのがいないですね。それで、あ、なんか珍しく出てきたっていうのでラッタウットを手に取ってみたら、でもこれって結局また戻ってるじゃん、と思って。プラープダーさんがやっていることを進めるような人が出てこないかなと思います。漫画もそうですけど、真似っぽいんじゃなくて、自分の表現みたいな。日本のコピーじゃなくて。ウィスットがひたすら自分ワールドでやっているんだから、それを見て、ああいうふうにやってもいいんだって思って出てくる人がいそうなものなのに、あんまりいないんです。アートでもウィット(・ピムカンチャナポン)の下がちょっと空いちゃってる感じがありますし。

吉岡 10年ずつくらいで出てくる、という説をよく聞くので、またそういうのが出てくるかもしれませんね。

木村 プラープダーさんとかウィスットのジェネレーションって、テレビとか洋楽とか漫画とか、ユニバーサルなカルチャーが出てきて、それを小さい頃から見聞きしていますね。今の下の世代はもっとネットとかを普通に摂取しているので、それが育つまで、もうちょっとかかるかも知れないですね。

吉岡 この2人のコラボレーションがもっとあるといいなと思います。ウィスットさんのすごい点は、プラープダーさんとは全然違うと感じていて、それを絵で表現できちゃう点。日本を描かせたら、『ダーリンは外国人』とか、いろいろありますけど、例えばウィスットさんの切り取りでまず導入があって、分析はプラープダーさん、みたいな。それは面白いだろうなあと。

木村 ウィスットは今年デビュー10周年なんです。それでタイでいろいろやりたいらしくって、プラープダーさんにも何かお願いしたそうです。

吉岡 英語とか、他の言語での作品集はまだ出ていないですよね。韓国語版とか、中国語版もあっていいように思います。

木村 中国語とか、いいと思うんですけどね。中国からのオファーはいろいろあります。でもそれは、たぶん日本経由なんですよ。日本の雑誌を読んでいる中国人がコンタクトしてくるんです。事務所が日本にあるっていうは、アジアの人から見ると面白く見えるのかなと思います。
 僕はプラープダーさんには、もっと街に出て行って、ディレクター業みたいなことをやって欲しいと思いますね。自分だけの仕事じゃなくて、ディレクションをするとか、キュレーションとか。オーバービュー型のタイ人って少ないですし、向いていると思います。ぜひ、やってもらいたいですね。


(終わり)
※ 写真は上から「座右の日本」のタイバージョン「キェントゥンイープン」と「鏡の中を数える」

 
吉岡木村■木村和博(株式会社マーマー代表)(写真右)
1978年生まれ。東京外国語大学、タイ・チュラロンコーン大学で学んだ後、大手衣料メーカー勤務を経て、遠藤治郎氏のSOI MUSICに参加。タイと日本を結ぶ音楽イベントの他、横浜トリエンナーレや東京都現代美術館『Show Me Thai』展などでタイのアーティストをユニークな形で紹介している。タイの漫画家ウィスット・ポンニミットのマネージャーとしても活躍。
http://www.soimusic.com/

■吉岡憲彦(国際交流基金職員)
1974年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、国際交流基金に入社。1999年から2004年まで同基金バンコク日本文化センター勤務、現地での日本映画祭、展覧会、舞台公演などを担当。帰国して現在は、国際交流基金芸術交流部造形美術課職員。共著に『アジア映画』(作品社)、翻訳書としてプラープダー・ユンの『地球で最後のふたり』(ソニー・マガジンズ)などがある。


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